「こぼす」という言葉を耳にした時、思い浮かべるものには、
- 「ご飯」
- 「水」
- 「涙」
- 「愚痴」
など、色々なものがあります。
この場合、「こぼす」という漢字に違いがあるのでしょうか?
違いがあるなら、どう使い分ければいいのでしょうか?
今回は、「こぼす」の漢字の使い分けについて、わかりやすく解説していきます。
「こぼす」を漢字で書くと?どんな種類がある?
「こぼす」の漢字には、
- 「零す」
- 「溢す」
があります。
ただし、「零す(こぼす)」は、常用漢字表にない読み方で、「溢」の漢字にいたっては、常用漢字表にすら無い漢字です。
ですので、どちらも公用文や新聞などでは使用されません。
そこで一般的に「こぼす」は、漢字よりもひらがなで表記されることが多くなります。
また、辞書によっては、「翻す」という表記が載っているものもあります。
ただし、「翻す」は、常用漢字にも常用外漢字にも「こぼす」という読み方はありません。
本来、「翻す」は、「ひるがえす」と読みます。
「ひるがえす」とは、裏返しにするという意味になります。
- 裏返す → 物がこぼれてしまう → こぼれる
というイメージから、当て字のように使われているのかもしれませんね。
「こぼす」の漢字!使い分けは難しい?コツや覚え方を例文で解説!
「零す」と「溢す」の厳密な使い分け方は無いといえます。
ただし、「零」という漢字は、
- レイ(ゼロ)
- (したたり)おちる
という意味を表します。
したがって、
「零す」の例文
- 「コップを倒して水を全部零して(こぼして)しまった」→(中身がそっくりなくなった(ゼロになった))
- 「お皿にひびが入っていたので汁が零れて(こぼれて)しまった」→(水密性の不足から漏れ出てしまった)
このようなイメージで使われます。
一方「溢」という漢字は、
- あふれる
- みちる
という意味を表します。
どうりで、溢れると書いて、「あふれる」とも読めるわけなんですね。
同じ漢字なのに、「あふれる」「こぼれる」のどちらとも読めてしまうのが、ややこしいですね。
話を戻して、「溢す」はこんなニュアンスで使われます。
「溢す」の例文
- 「よそ見をしていたので注いでいたお茶が溢れて(こぼれて)しまった」→(容量を超えてあふれてしまった)
「言葉」「愚痴」「食べ物」「飲み物」「涙」「水」の場合はどの「こぼす」を使う?
「零す」と「溢す」の使い分けがわかったところで、例題で練習してみましょう。
例題1:言葉を「こぼす」
「言葉をこぼす」という表現はあまり使いません。
似たような表現としては、
- 「言葉を漏らす」(うっかりして思ったことを口にしてしまう)
- 「言葉があふれでる」(入りきらなくて外へこぼれ出る)
などになります。
- 「言葉をこぼす」が、「言葉を漏らす」のようなイメージで使われる場合は、「言葉を零す」
- 「言葉があふれでる」のようなイメージで使われる場合は、「言葉を溢す」
が正解になります。
例題2:愚痴を「こぼす」
「愚痴をこぼす」とは、言ってもどうにもならないことを言って嘆くという意味になります。
この場合、たまった不満が内面からあふれ出るように出てくるというイメージになります。
よって「愚痴を溢す」という表現になります。
例題3:食べ物を「こぼす」
ご飯など「食べ物」の場合、
- 容器をうっかりひっくり返してしまう
- 口に入れたものがうっかり出てしまった
など、途中で中のものを外に出してしまったといった時は、「食べ物を零す」と書きます。
- 茶碗によそり過ぎてあふれてしまった
といった時は、「食べ物を溢す」と書きます。
例題4:飲み物を「こぼす」
「飲み物」の場合も、「食べ物」と同様です。
- 途中で中のものを外に出してしまったといった時は、「飲み物を零す」
- よそり過ぎてあふれてしまったといった時は、「飲み物を溢す」
と使い分けます。
例題5:涙を「こぼす」
「涙」の場合、
- 感情が高まった時も
- 何気なく流した時も
涙腺があふれて涙が出てくるのでイメージとしては、「涙を溢す」がイメージに近いでしょう。
例題6:水を「こぼす」
「水」も「飲み物」とおなじ「液体」になるので、
- 途中で中のものを外に出してしまったといった時は、「水を零す」
- よそり過ぎてあふれてしまったといった時は、「水を溢す」
と使い分けます。
愚痴はなぜ「こぼす」を使う?「愚痴を言う」との違いは?
愚痴とは、言ってもどうにもならないことを言って嘆くという意味です。
例えば、その日会社で失敗して上司に怒られたとき、同僚に、「あの課長いなくならないかな」と言ったとします。
これは、その日自分を怒った課長がいなくなって欲しいという、言ってもどうにもならないことを言って嘆いています。
このようなときは、「愚痴を言う」になります。
一方、
- 今まで上司に何度も怒られる
- いつまでも給料が上がらない
- 中々昇格も出来ない
といった、たまった不満から、「こんな会社辞めてしまいたい」と同僚に語った場合はどうでしょう。
たまった不満がコップからあふれ出すように、言ってもどうにもならないことを言って嘆いています。
このようなときは、「愚痴を溢す」という表現になります。
若干、ニュアンスが違うのがわかっていただけますでしょうか。
さいごに
以上、「こぼす」の漢字の使い分けについて解説してきました。
「こぼす」の漢字表記には、厳密な使い分けはありません。
ただし、シチュエーションによって使い分けることで、イメージが伝わりやすくなります。
使い分けに迷った場合は、当然「ひらがな」で「こぼす」と表記するのもOKです。
伝えたいことをよく考えて、上手に使い分けて下さいね。