「尻に火がつくって言うけど、なぜおしりなの?」
状況の絵面を想像すると少し滑稽な感じがしますが、慣用句である「尻に火がつく」本来の意味や使い方を理解している人は少ないのではないでしょうか。
今回は、「尻に火がつく」を詳しく解説していきますので、よく理解して上手に使ってください。
「尻に火がつく」の意味や由来は?間違い例と正しい例は?
「尻に火がつく」には
- 事態が差し迫って、追い詰められた状態になる
という意味があります。
腰掛(イス)と間違えて火鉢に座った人が、着物の尻の部分に火がついたのを慌てて消そうとした姿が面白かったので、この様な表現になったと言われています。
前もって出来たはずの事を、余裕を持ちすぎて先延ばした結果、ぎりぎりの状態にまでなって焦ってしまう。
この様な状態が「尻に火がつく」という事です。
もっと分かりやすく言うと、
「今日で夏休みが終っちゃう!」
「でもまだ宿題が何も終わっていない!」
「手伝ってもらおうと思ったお父さんもお母さんも、夜遅くまで帰ってこない‼」
「尻に火がつく」状況を伝えるのに、たくさんの人が経験したことのあるこの「夏休みの宿題」の例えが、一番分かりやすいのではないでしょうか。
例文
- 彼はいつも尻に火がつかないと宿題を始めない。
- 借金の返済を行っていると、そのうちに尻に火がついてしまう。
このような使い方をします。
一つ注意するのが、「尻に火がつく」を用いる際は、
- 「計画的に宿題を進めないと夏休みの終りに大変なことになる」
というように、前もって分かっていた事態に差し迫った時に使うので、
間違い例
- 彼は、急に追いかけてきた犬から、尻に火がついたように逃げています。
このように、急に起こった出来事などに対しては使用しません。
「尻に火がつく」の類語、言い回し、対義語は?英語では何ていう?
「尻に火がつく」の類義語として「切羽詰まる」があります。
「切羽詰まる」は
- 事態が差し迫りどうにもならなくなる、身動きが取れなくなる
と言う意味になり、打開するのが非常に困難である様子を表します。
例文
- 「重傷者のため、医療機関が切羽詰まった状況になっている」
- 「彼はギャンブルにはまり、切羽詰まって横領してしまった」
このように使います。
もともとは、いざという時に刀が抜けず、自分の身が守れず危うくなるところから来ています。
命の危険にさらされて、どうしようもない様子を表すので、「尻に火がつく」よりも強い表現になります。
他には「焦眉の急」があります。
「焦眉の急」は「しょうびのきゅう」と読み
- 危険が目の前に迫っていること、切迫した状況
という意味になります。
『五灯会元』という中国の歴史書の中の禅問答で、「一番切迫した状況は、火が眉を焼く時だ」と言ったのが由来になります。
例文
- 自然破壊による環境の悪化はまさしく焦眉の急である。
- 大地震が起きた場合、焦眉の急は自分の身を守ることです。
このように使い、「尻に火がつく」のように個人の危機というよりも、社会全体の危機に対して使われる言葉です。
それでは、「尻に火がつく」の対義語にはどのようなものがあるでしょう。
一つは「従容自若」があります。
「従容自若」は「しょうようじじゃく」と読み
- 慌てたり焦ったりせず、ゆったり落ち着いている様子
を意味しています。
事態が差し迫って、追い詰められた状態になる「尻に火がつく」とは対局な意味と言えます。
また、同じような意味で「泰然自若」という言葉があります。
こちらも「尻に火がつく」の対義語と言えます。
他にも、前もって分かっていた事態に差し迫った時に使うのが「尻に火がつく」なので、事前に問題を解決しておけば「尻に火がつく」事にはなりません。
ですので、
- 万全の用意が出来ている様子
を表す「準備万端」も「尻に火がつく」の対義語と言えます。
次は「尻に火がつく」を英語で表現するとどの様になるでしょう。
そのまま英語にすると
- 「One’s butt is on fire」
のような感じになりますが、これでは本来の意味は通じません。
「尻に火がつく」の本来の意味の「事態が差し迫って、追い詰められた状態になる」という状態を表現すると、
「差し迫った状態」を表す「pressing」
「問題」や「難題」を表す「problem」
を使った
- 「This problem is pressing」
が「尻に火がつく」の英訳と言えます。
「尻に火がつく」と「足元に火がつく」の違いは?
「尻に火がつく」と似た言葉に、「足元に火がつく」があります。
同じ「火がつく」という表現ですが違いはあるのでしょうか。
「足元に火がつく」は
- 危険が身近に迫っていて落ち着かなくなる
という意味があり、今にも危険で、回避しなければならない状態であることを表しています。
例文
- 「経営不振が続き足元に火がついてしまった」
- 「スキャンダル報道で大臣の足元に火がついた」
などのように、今の状況や環境が失われそうなときに使われます。
この様に「足元に火がつく」は
- 身近に危機が迫っていること
を表し、不適切な行動などで、自分の身が危なくなるようなときに使います。
対して「尻に火がつく」は
- 追い詰められた状態になること
を表し、期限などが迫って焦っているようなときに使うという違いがあります。
さいごに
「尻に火がつく」を解説してきました。
一見ユーモラスな言葉ですが、実際は笑っていられない状態を意味します。
あなたも、夏休み最後の日の宿題のように「尻に火がついた」状況にならないよう、計画的に物事を進めていってくださいね。