「息を呑むはなぜ呑むなの?飲むではないの?」
テレビを見ていると、スポーツ中継で「息を呑む展開が続いています」という表現や、旅番組で「息を吞むほど美しい景色です」といった表現をよく耳にします。
息は吸うものなのに、なぜ「呑む」という表現なのでしょう。
今回は「息を吞む」の意味や由来について詳しく解説していきます。
よく聞く表現なので、この機会に知っておくと便利かもしれません。
「息を呑む」の意味や語源は?間違い例と正しい例は?「息を飲む」はどう?
「息を呑む」の意味は
- 驚いたり恐れたりして一瞬息を止めること
になります。
実際に息を止めることでなく、「息が止まるほど驚く」という例えになります。
分かりやすい具体例として
- 富士山に登って、山頂でご来光が昇る瞬間を見たとき
- 優勝が決まるPKで、最後の選手がボールを蹴ろうとしている瞬間
- 子どもが飛び出して車にひかれそうになった時
などのような時が「息を呑む」状況になります。
その成り立ちは、人が驚いた瞬間一瞬息を吸い込み、呑み込むような動作から生まれた言葉と言われています。
確かに驚いたりすると、一瞬「ハッ」と息を吸い込みますね。
この動作は、人が驚くと、無意識のうちに神経が高ぶり、すぐ動けるよう筋肉を緊張させるために起こるそうです。
使い方は、
例文
- 「始めて生でオーケストラの演奏を聴いたときは、その迫力に思わず息を呑んだ」
- 「話題の映画を見たときは、息を呑むほど熱中してしまった」
- 「普段大人しい人が突然激怒したので、周囲の人は思わず息を呑んだ」
このようになります。
ちなみに、「息を飲む」と書いてしまいがちですが、これは間違いになります。
「飲む」という表現は、「水を飲む」「薬を飲む」など、実際に物を飲むときに使います。
「呑む」の場合は、「涙を呑む」「言葉を吞む」「要求を呑む」など、比喩的表現として使います。
どちらを使うか分かりづらいときは、平仮名で「のむ」と表記しておけば問題ありません。
「息を呑む」の類語、言い回し、対義語は?英語では何ていう?
「息を吞む」の意味に似た言葉に「啞然とする」があります。
「唖然とする」は
- 驚きや呆れなどで言葉が出ない
という意味になります。
思いがけないことにびっくりし、呆れることで、開いた口が塞がらない様子を表します。
- 「見た目は大したことがない服なのに、値段を見て唖然とした」
- 「試験のあまりの散々な結果に啞然としてしまった」
などのように、言葉が出ないという状況は「息を吞む」と同じですが、「啞然とする」の場合は、「感動して」や「恐れを抱いた」ときではなく、「呆れた」状況のときに多く用います。
また、「言葉を失う」も「息を吞む」と似たような意味の言葉になります。
「言葉を失う」はその字の通り、
- 強い衝撃を受けて言葉が出てこなくなる
という場合に使います。
「感動」や「感銘」だけでなく、「失望」や「恐怖」などでも使うことが出来ます。
他にも、「絶句する」「茫然とする」なども同様な意味と言えます。
「息を吞む」の対義語としては「息を吐く」があります。
「息を吐く」は「いきをつく」と読み
- ためていた息をはく、苦しみや緊張から解放される
という意味になります。
- 「重要な会議が無事に終わりほっと息を吐いた」
- 「一日が終わり、自宅で冷たいビールを飲んで、ふーっと息を吐いた」
などのように、開放的な状況の時に用いられます。
また、「感動」や「緊張」までは至らず、「何も感じない」といった意味合いでの対義語として、「平然」や「ありきたり」などがあります。
「息を吞む」の英訳は、「ハラハラさせる」「あっと言わせるような」といった意味の
- 「breathtaking」
になります。
- 「a breathtaking beauty」(目を見張るような美人)
- 「a breathtaking panorama of Mt.Fuji」(あっと息を呑むような富士山の全景」
などのように使い、「息を吞む」のプラスのニュアンスを表します。
他にも
- 「amazing」(驚くほど良い、素晴らしい)
- 「impressive」(感動的な)
なども同様な使い方が出来ます。
逆に、「怖い」「恐ろしい」といったようなマイナスのニュアンスを表す物としては、
- 「frightening」(ぎょっとさせる、驚くべき)
- 「terrifying」(恐るべき、ぞっとするような)
があります。
前後の文章によって使い分けてもいいかもしれません。
「息を呑む」と「固唾を呑む」の違いは?
「息を吞む」と似た意味の言葉に「固唾を呑む」があります。
「固唾を呑む」は
- 事の成り行きが気がかりで緊張する
という意味になります。
スポーツ観戦やホラー映画を見ている時などで、次の展開が気になる様な場面でよく使われます。
「固唾」は
- 緊張時に口の中にたまる唾(つば)
を意味します。
人は緊張したとき、見聞きすることに集中しすぎて、呼吸が疎かになりがちになります。
この時の唾は粘り気が強く飲み込みづらいため、「固い唾」という比喩表現から「固唾」と言われるようになりました。
その唾を飲み込んで、事の成り行きを見つめることを「固唾を吞む」と表現するようになりました。
ちなみに、「固い唾」とは比喩的表現なので、この場合の「のむ」は「息を吞む」と同様に、「呑む」と表記します。
「息を吞む」が
- 驚いたり恐れたりして一瞬息を止めること
という意味のように
- 瞬間的な驚きや感銘を受けたときの表現
が多いいのに比べ、
「固唾を吞む」は
- 緊張しながら見守る
のように、継続的な表現を表す時に使われます。
つまり
- 「息を吞む」は瞬間的な表現
- 「固唾を吞む」は継続的な表現
という違いがあります。
さいごに
「息を吞む」の意味や由来について解説してきました。
「息を吞む」は使用用途も広く、日常的にも使いやすい言葉です。
きれいな景色を見たときや、危険な場面に出くわした時など、様々な場面で使ってみて下さい。