日本には五・七・五・七・七の三十一音で成り立つ「短歌」という詩の形があります。
心を動かされるような景色や出来事を、少ない言葉で言い表します。
短歌は、1300年前には作られていたとされ、古くから日本人に親しまれている詩の形と言えます。
また、限られた字数で風景や出来事を表現し、言葉のリズムや語感を楽しめます。
短歌は、文章力や表現力のトレーニングにも繋がるため、学校の国語の授業に取り入れられることも多いですね。
あなたも実際に短歌を作る宿題が出されたことでしょう。
そんな悩めるあなたのために、今回は「秋」を連想させる短歌をいくつかご紹介しながら、短歌の作り方やコツなどをお教え致します。
参考記事
秋を連想させる短歌!有名なもの2つ
短歌の中でも特に有名なものといえば、百人一首ですね。
学校の授業で触れたことがあるのではないでしょうか。
まずはそんな百人一首の中から、秋を連想させる短歌を二つご紹介します。
奥山に もみぢふみわけ なく鹿の 声聞く時ぞ 秋はかなしき(猿丸太夫)
(意味:奥深い山の中で、一面に散った紅葉を踏み分けながら鳴く鹿の声を聞くときは、この秋の寂しさがより一層悲しく感じられる。)
夏の暑さが徐々に弱まり、日も短くなっていく秋は、なんだか物悲しいような切ない気持ちになりますよね。
木々を彩っていた紅葉が散り、地面を埋め尽くしている山奥で、鹿が鳴く声まで寂しげに聞こえたのでしょう。
ちなみに、古典における「かなし(き)」は「悲し(哀し)」の他に、心惹かれるという意味を持つ「愛し」も「かなし」と読みます。
秋風の たなびく雲の 絶え間より もれいづる月の 影のさやけさ(左京大夫顕輔)
(意味:秋風によって雲がたなびき、その絶え間から漏れ出てくる月の光の、なんと明るく清らかなことか。)
「影」は現代文では、光を遮った時に光源とは反対側に出来る黒い部分を指します。
しかし古典の中では、日や月や灯火などの光として訳されます。
現代でも「仲秋の名月」「十五夜」といった言葉が残っていますね。
秋空に雲の合間から覗く月の美しさは、昔から人々の心を感動させていたことがよく分かります。
秋を連想させる短歌!面白いもの2つ
続いて、直接「秋」という言葉は出てきませんが、秋の情景を詠った面白い短歌を二つご紹介します。
ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 からくれないに 水くくるとは(在原業平朝臣)
(意味:不思議なことが多くあったという神がいた時代にも聞いたことがないだろう、竜田川に紅葉が散り、川の水を鮮やかな真紅に染めているように見えるなんて。)
「竜田川」は現在の奈良県にある紅葉の名所、「からくれない(唐紅)」とは濃くて美しく鮮やかな紅色のことです。
「ちはやぶる」は本来、「勢いがある、荒々しい」といった意味の言葉でした。
しかしこの歌では、「神」という言葉を引き出す枕詞(まくらことば・短歌の中で特定の言葉を導き出す単語のこと)として使われています。
とはいえ、「竜田川を真っ赤に染めてしまうほどに紅葉を散らす、勢いの強い風が吹いている」といった想像もできますね。
ちなみに、「ちはやぶる」は「ちはやふる」とも言い、アニメや映画にもなった漫画のタイトル「ちはやふる」もこの歌が由来となっています。
きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む(後京極摂政前太政大臣)
(意味:こおろぎがしきりに鳴いているこの寒い夜に、むしろの上に衣の片袖を敷いて、私はたった一人寂しく寝るのだろうか。)
「キリギリスなのにコオロギ?」と不思議に思うかもしれませんが、昔はこおろぎのことを「きりぎりす」と呼んでいたんです。
また、「さむしろ」は、敷物や寝床を意味する「さむしろ(さ筵)」と「寒し」の二つの意味を持つ掛詞(かけことば・同じ読みの言葉に二つの意味を持たせること)になっています。
霜が降りそうなほど寒い夜、こおろぎの声を聴きながら、たった一人で眠る寂しさを詠った物です。
秋を連想させる短歌!作り方の手順は?
ここまで百人一首を参考に、秋の短歌をいくつかご紹介してきました。
では、実際に秋を連想させる短歌を作るときの手順をご説明します。
秋にちなんだ短歌を作る手順
- 秋の季語を選ぶ
- 実は、短歌は俳句と違って、必ず季語を入れなければならないわけではありません。
- とはいえ、秋を連想させる短歌を作るのであれば、季語を入れると、読んだ人にどんなシーンを詠んだ短歌なのかを想像してもらいやすくなりますよ。
- 「十五夜」や「お月見」や「紅葉狩り」、10月の第二月曜日に訪れる「体育の日」、秋に開催されることの多い「運動会」など、あなたの中にある秋をイメージしやすい言葉を選びましょう。
- 選んだ季語から思い浮かぶ場面を元に、気持ちを言葉にして、一番伝えたいものを決める
- 季語が決まったら、そこから連想される場面を想像して書き出してみてください。
- 例えば「お月見」や「十五夜」なら、綺麗な満月がぽっかりと浮かんでいる夜空や、お供えの月見団子、周りから聞こえるコオロギなどの虫の声が思い浮かぶことでしょう。
- その中で、貴方が一番伝えたい気持ちを選びます。
- 「月が大きくて綺麗だった」「月の影がウサギに見えた」「月も綺麗だけど真っ白な月見団子も綺麗で美味しそう」などなど、一番伝えたい気持ちや場面を具体的に書き出してみるとスムーズです。
- 五・七・五・七・七の形に当てはめる
- 書き出したい場面が決まったら、あとは短歌の五・七・五・七・七の形に当てはめてみましょう。
- 上手く形にはまらない時は、同じ意味の言葉で言い換えられるものがないか調べてみると良いものが見つかるかもしれませんよ。
秋を連想させる短歌!作り方のコツやポイントは?
手順がわかったところで、最後に作り方のコツやポイントをお教えします。
作り方のコツ1:読んだ人の想像を膨らませるような言葉を選ぶ
例えば「月が大きくて綺麗だ」といった感想を、そのまま形式に当てはめるだけでは、読んだ人の想像が膨らまず、印象に残りにくい短歌になってしまいます。
どのぐらい大きく見えるのか、どのぐらい綺麗に見えたのかを、相手に想像させるような言葉を選ぶようにしましょう。
- 「両手に乗せてもこぼれ落ちるんじゃないかと思うほど大きい」
- 「街灯の光が霞んでしまいそうなほど綺麗に輝いて見える」
など、具体的な比較対象を思い浮かべてみると良いかもしれませんね。
また、「楽しい」「悲しい」などの感情を直接的な言葉で書いてしまうのも、読んだ人が想像を膨らませる余地を限定してしまいます。
辞書やインターネットを活用して、よく似た意味の言葉(類義語)を調べてみると、より良い言葉が見つかるかもしれませんよ。
作り方のコツ2:いろいろな表現技法を試してみる
表現技法を知っていると、より印象的な短歌を作る手助けをしてくれます。
例えば、
- 擬人法→「十五夜なので、今日の月は誇らしげに輝いている」など、人間ではないものを人間のように例えるテクニック
- 倒置法→「月が綺麗だ→綺麗だ、月が」のように、言葉の順番を入れ替えて感情を強調するテクニック
などです。
他にも例文の中で登場した、
- 同じ読みの言葉に二つの意味を持たせる「掛詞」
- 同じ言葉を繰り返して感動を強める「反復法」
など、さまざまな表現技法があります。
また、短歌であれば古文に登場する「切れ字(や・かな・けりなど、文章の意味が切れる所に置く言葉のこと)」を使ってみるのもいいかもしれません。
自分にあった表現技法を短歌に織り込んでみてください。
作り方のコツ3:作ったあとは必ず読み返す(推敲する)
短歌や俳句に限らず、作ったあとにもう一度読み直して、より適切な言葉や表現を探すことを「推敲」と言います。
「完成したからもういいや」ではなく、もう一度読み直してみることで、
- 「こっちの言葉にした方が短歌のリズムに合ってるかも」
- 「こっちの表現技法の方がより相手に情景が伝わりそう」
といった発見があることも。
もし時間があるようであれば、日にちを空けて読み直すと、脳がリセットされて、より新しい発見に繋がることもあるのでオススメです。
さいごに
夏の暑さがどんどん和らぎ、涼しい風が吹き始める秋は、さまざまな場面で季節の変化を感じることができます。
ぜひあなたなりの言葉で、秋の短歌を詠んでみてくださいね。